プレイステーション3(PS3)のエンタテインメントの領域を広げ、ユーザーの圧倒的な支持を集めている商品がある。TVの地上デジタル放送の視聴や録画をワイヤレスコントローラーを使って、ゲームのように楽しめる“torne(録るね)”。そのプロジェクトを率いた人物が、商品企画部課長の渋谷清人である。SCEらしさを全身から発している人間の一人と言えるだろう。
「PS3には立ち上げから関わっていましたから、そのPS3の世界をさらに広げていくような商品をつくりたいとずっと思っていました。PS3のもともとのコンセプトには、TVというエンタテインメントも網羅するという思想が含まれていました。2008年4月に放送業界による外付け地デジチューナーの発売が解禁され、これを受けて、ソフトウェア開発メンバーの一人がPS3であればTVの番組表がこんなに速く動かせるんだと、torneの番組表の原型となるデモをつくりました。見た時に、これはイケルと思いました。商品企画のキーワードは革新性。何コレ?という驚きがあるものがつくれるかどうかということです」

いままで触れたことのないものをユーザーの方にいかに提供するか。どういうものが楽しいのか考える。それぞれの部署の人がPSを築き上げてきたものをみんな持っている。PSが築き上げてきた革新的なもの、イノベイティブなものを感じてもらうための商品を提供していくことが役割だと渋谷は思っている。
「商品企画の醍醐味は、PSというワールドワイドなプラットフォームで世界を相手にないものをつくりだしていけること。SCEはSONYとSME(ソニー・ミュージックエンタテインメント)との混合チームから生まれた。自由に発想させてくれる環境があり、やりたいことがやれる会社です」
大学の専攻は数学科。エンジニアにはなりたくなかったが、仮説を立てて証明していく過程が面白かった。SCEに入社してから営業や販売企画部に始まり、それ以降はさまざまなプロジェクトに関わった。プロジェクトを進めていく上で必ず障害が立ちふさがる。失敗もする。ひとつずつ解決して行くプロセスが好きだと笑う。
「プロジェクトの成功はどれだけ想い入れを持つかで決まる。新しいプロジェクトを進めていくためには、とにかくやりたいと訴えていくしかない。仲間をたくさん見つつけて、やりたいと思う人間を増やしていく。“torne”に関わった人数は100人以上。ハードウェア、システムソフトウェアを開発するメンバー、パッケージをデザインする人、ドキュメントを作成するメンバー、放送規定に合っているかチェックする人など、普通のゲームを作る以上の人間が関わっています」
“torne”はSCEのいろいろな部署の人間が横断的に関わって実現できた商品。SCEの人間が持っているそれぞれのノウハウを全部つなぎ合わせると、“torne”のような商品ができる。他社ではできないと渋谷は断言する。
「“torne”はレコーダーではなく、ゲームとしてつくっている。良いディレクター、良いグラフィッカー、良いプログラマーがいればいいものができる。それぞれの専門家が決めれる体制をしっかりつくることが大切。あとは横断的に見れるプロデューサーがいればいい」
関わっている人間は実にさまざま。そんな人たちの想いを次世代に伝えていくことが使命だと考えている。
PSスピリッツは世の中をびっくりさせることに尽きる。価格でもスペックでもデザインでもいい。これまでにはなかった、驚きの実現です。SCEの人間としてやらなければいけないことは、ポテンシャルの高いPSが持っているものをいかに守り抜いていくか。SCEがもともと持っている良さは、個人の力がスピード感を持ってつながっていて、失敗を恐れず、モノをつくっていくところにあるんです」
いろいろな人の想いや遺伝子は受け継がれている。PSのブランドを守り続けてきた人々の考え方は、絶対に捨ててはいけないと渋谷は心に誓う。